邦訳レビュー 「バットマン アイ・アム・ゴッサム」


DCユニバース リバースシリーズは開始から早いもので1年以上経過しましたが、その勢いは衰えることを知りません。本国では悪のバットマン達との戦いを描いたスコット・スナイダーの「DARK NIGHTS METAL」が進行中であり、来る11月22日にはDCユニバースとウォッチメンの激突を1年がかりで描く「Doomsday Clock」が控えており、大いに盛り上がっています。

そんな本国の盛り上がりに負けじと、邦訳作品の出版も加速しています。先日shopro(小学館プロダクションワールドコミックス)さんから2018年度の刊行予定作品が発表されましたが、現在刊行されているリバース関連作品の続巻をはじめ、ティーンタイタンズやスーパーサンズなどの刊行も決定したことが明らかになり、幅広い作品を楽しめるようになりそうです。(ちなみにこのラインナップが初公開されたshoproさんのイベントには私SATDANも足を運びました!)

そして続々と刊行されるリバース関連作品の中で最も刊行ペースが速かったのが今回取り上げるバットマン誌です。バットマンといえば前回の投稿キャットウーマンとの婚約するという驚きの展開が描かれていることをお伝えし、それより少し前からバットマン誌を振り返ってみましたが、そこで取り上げた「ザ・ボタン」や「ウォー・オブ・ジョークス&リドルズ」までの邦訳が既に確定しています。「ウォー・オブ~」に関しては本国ですら未だ単行本が出版されていない状況で、邦訳のペース速さが顕著に表れているといえるでしょう。

今回取り上げるのはそんなバットマン誌の記念すべき第1巻バットマン アイ・アム・ゴッサムです。



前回の投稿ではザ・ボタンまで遡ってバットマン誌をご紹介しましたが、今回の「アイ・アム・ゴッサム」はザ・ボタンからさらに遡り、その前に描かれた「アイ・アム三部作」の一作目という位置づけになります。ちなみに残り2作も邦訳が決定しており、2作目「アイ・アム・スーサイド」は先日発売されました。

NEW52シリーズを担当したスコット・スナイダーからライターを引き継いだのはトム・キング。彼はCIAのテロ対策センターに7年間に渡って勤めた経験があり、DCではスパイものの「グレイソン」や「オメガメン」を手掛け、マーベルでは「ヴィジョン」でアイズナー賞ベストリミテッドシリーズ部門を受賞するなど、今まさに大注目のライターです。

そんな彼が手掛けた本作は記念すべきカイトマンのリバース初登場作品バットマンという存在を改めて考えさせるような作品となっています。



ある日ゴッサムに現れた二人のニューヒーロー、「ゴッサム」と「ゴッサムガール」。空を飛び、スーパーマンと同じような能力を使える存在。それは生身の人間であるバットマンとは違う、真の救世主になり得る存在でした。バットマンは彼らを(いつものことながら)用心しながらも、ホームタウンを守る新たな仲間として彼等を受け入れます。

果たして彼らは何者なのか?その答えは過去にありました。かつてブルース・ウェインが両親を失い、闇の騎士となる運命を背負った場所「パーク・ロウ」同じようにそこに足を踏み入れてしまった仲睦まじい親子に強盗が銃を向け、悲劇は繰り返されてしまったかに見えました。しかしその時、彼らをバットマンが救います。そして去り際に彼はこう言い残すのです。

「落ち着いたらしばらく恐怖に襲われるだろう。それは恥じることじゃない。自然な感情だ。誰だって恐怖を感じる。だが忘れるな。つまりそれは誰だって恐怖と戦う機会が持てるということでもあるんだ。勇敢になれる機会は誰にでも訪れる」

これはまさに名言と呼ぶに相応しい台詞でしょう。逃げたくなるような恐怖と悲しみ。しかしその絶望の中にある希望を確かに感じさせ奮い立たせてくれる。素晴らしい台詞だと思います。

そしてこの事件があってから、長男ハンクはバットマンに対して強い憧れと尊敬を抱くようになります。そして事件当日には居合わせていなかった次女クレアもまた、彼を追うようにバットマンへの尊敬の念を深めて行きます。

その後2人は人助けに勤しみながら訓練に励みました。肉体的にも頭脳的にも、かつて“彼”がそうだったように。裕福な家庭に生まれた彼らはその身分を活かし、ひたすらに正義のためにその身を捧げたのです。その活動は海外にまで発展しました。そして街に帰ってきた彼らはバットマンとは違う、真の超人として帰って来たのです。

彼等の姿は見た目や能力的にもバットマンと対照的に描かれています。ですが2人には共通点もあります。ブルースもハンクも、同じ場所で悲劇を経験したのです。しかしハンクには助けがもたらされた。あの場所で失った人間と失わなかった人間、救いがなかった人間と救いがあった人間。ブルースはその恐怖からヒーローになり、一方でハンクはそこで感じた希望からヒーローになったのです。こここそが真の対照的な点でしょう。絶望から這い上がったヒーローと、希望に突き動かされたヒーロー。ありえたかもしれないもう1つの自分の姿、バットマンの目にはゴッサムがそう映ったのかもしれません。次第にバットマンは彼を認め始めていたようにも見えました。

しかしそんな彼らの関係はある男の登場で揺らぎ始めます。その名はヒューゴ・ストレンジ。(個人的にはアーカムシティでお世話になり、思い入れのあるヴィランの一人です)彼は相手の精神を操る「サイコ・パイレート」を配下に置き、ゴッサムの浄化に取り組みます。ゴッサムの犯罪者たちの精神を操ることによってヴィラン達をコントロールしようとしていました。そしてこの作戦を統括していたのはスーサイド・スクワッドでおなじみのあのアマンダ・ウォラー。そう、これはアメリカ政府によるゴッサム浄化計画だったのです。

しかしヒューゴは(当たり前のことながら)政府を裏切ります。そしてその標的は不幸にもゴッサム達に向かってしまうのです。精神を操られてしまったゴッサムはストレンジの周りにいた兵士達を皆殺しにしてしまいます。しかし悲劇はこれで終わりませんでした。唯一生き残っていた兵士の一人が暑さからマスクを脱いだゴッサムの正体を軍の情報網を使って特定し、ハンクの両親を殺してしまったのです。必死にゴッサムのため、平和のために活動してきたにもかかわらず、あまりにも理不尽なこの仕打ちについにゴッサムは完全に正気を失い、両親を殺した兵士を殺すと街の犯罪者たちを始末するために飛び立ってしまいました。こうしてハンクは一度は救われたにもかかわらず、ブルースと同じように家族を失い、彼を突き動かしていた希望の心を失ってしまったのです。果たしてバットマンは彼を止め、“ゴッサム”に希望を取り戻すことが出来るのでしょうか・・・

ここまで書いてきてお分かりいただけたと思いますが、本作はバットマンという存在に改めて焦点を置いている作品とみていいと思います。ある1点から別の道を歩みながらも最終的には同じ道に収束した2人のヒーロー、彼らが出会ったとき、バットマンは歪んでいない純粋な正義の心を持つゴッサムをみて何を思うのか、そしてそれが行き着く先は・・・是非皆さんの手で確かめて頂きたいと思います。トム・キング特有の鬱展開に満ちながらもどこか希望が感じられるバットマンシリーズはここから始まっていくのです。

さて、綺麗に終わってこれでおしまい!の前に、この作品のもう1つの重要な点を伝えさせてください。それは・・・

Hell Yeah!!!!!!!!!!!!!!

そう、カイトマンです!本作はカイトマンのリバース初登場作品なんですよ!何故ここまで興奮しているのかは前回の投稿をご覧いただくとして、どうしても伝えたいことがあります。作中の彼の合言葉、「カイトマン!やったぜ」ですが、原文は「KITEMAN! HELL YEAH」です。このHell Yeahをよく覚えておいてください。ウォー・オブ・ジョークス&リドルズが翻訳されたとき、恐るべき伏線が回収される(されない方が幸せだった・・・)
ことになるのです。是非ご期待ください!

それではまたの機会にお会いしましょう!

コメント